ウサギのMimi〜アラフォー風俗嬢の恋日記〜

アラフォー風俗嬢Mimiの恋愛あり笑いありの日常を綴ります。

第6話「美々の誕生・前編」

まやは、駅の改札口を出て、駅前ロータリーに停車していた、黒のワゴンカーに乗り込む。


「おはようございます」

ほんわかした雰囲気の青年が、こちらを振り返って、笑顔で挨拶をしてきた。


「お、おはようございます…」

緊張のあまり、まやは声が震えたが、青年は特に気にする様子もなかった。


「それでは出発しますね~」


車内はずーっと無言のままだった。

まやは暑さのせいか、緊張のせいか、汗をかいてたら、青年は、「暑いですか?」と言い、エアコンを強くしてくれた。


ワゴンカーは、ラブホテル街の一角にある、マンションに到着。


お店の名前は「完熟の花園」。

中年熟女の、人妻、シングルマザー専門のお店。

30歳~65歳の女性が多数在籍しているらしい。


青年とエレベーターに乗り、まやは掃除が行き届いて、明るくキレイな部屋に案内された。


「ご挨拶遅れましたが、『完熟の花園・柊店』店長の草部です。よろしくお願いします。」


「す、鈴木まやです……よろしくお願いします」


「鈴木さん、どうぞおかけください。

説明していきますね~」


「はいっ」


青年が書類の何枚かを、まやにさしだしたところに、「こんにちは~!」と、もうひとりの男性が笑顔で部屋に入ってきた。


「はじめまして。野々山店と柊店両方の責任者の、川崎です。よろしくお願いします。」


「す……鈴木まやです」


「あらっ?!随分緊張されていますね~。

まあ、冷たい飲み物でも飲んで、リラックスしてくださいね。怖いことはしませんから。」


「あ……はい」


川崎はジュースと、水とお茶のペットボトルを3本出す。

「どれでも好きなものを選んでください♪」


「ありがとうございます」

まやは水のペットボトルの蓋を開け、飲んだ。

緊張で喉がカラカラだったので、川崎の気づかいが嬉しかった。


草部店長から、お店のルール、給与について、デリへルのお仕事について説明を受ける。


デリへルは、ラブホテルやお客様の自宅に、デリへル嬢を派遣し、決められた時間を、お客様と基本ふたりで過ごす、無店舗型の風俗店。


「……性的サービスは行いますが、本番(セックス)は行いません。お客さんから強要されるかも知れませんが、法律違反なのでお断りしてくださいね」


「はい……」

やはりそうなんだ。

わたしに、性欲が最高潮に高まった男性に、断るという行為なんかできるだろうか?

まやは急に心配になった。


「大丈夫ですよ。

ほとんどのお客さんは、きちんとお断りしたらわかってくれますから」

川崎店長が優しく言った。


内容を了承して、契約書に署名する。


また、「完熟の花園」には独自ルールがある。


「お店の他の女の子と、仲良くなってはダメ。連絡先交換はしないでください。

会話するのは、基本スタッフのみです」


「そうなんですか……」


「困ったことがあったら、僕達に何でも相談してくださいね」

青年は優しく微笑んだが、まやは心細かった。


続いて服について説明される。

「スカート着用、上下セットの、綺麗な下着を着用。靴はヒールがあるもの。

この3点を満たしていれば、基本自由です。」


女の子たちは、身バレ(知り合いにこの仕事してるのがバレること)防止に、仕事用の服を何着か買うらしい。


「次は……源氏名ですね。

こんな名前にしたい、とか候補はありますか?」


まやは源氏名を考えてこなかったから、お店の人と一緒に考えた。


「苗字は牧野さんってどう?」

 

「あ……ではそちらでお願いします」

 

「名前どうしようかな…『さちこ』ってどうですか」

 

「さ、さちこ…」

まやは思わず吹き出してしまった。

 

「ダメですか……笑。

みちこ…とかは?

みちる、みえこ、みそら、とか」


あやはふと、自分のバッグについている、ふわふわのうさぎのキーホルダーに目をやった。


「美々、てどうですか」


「かわいいね!いいんじゃない。

では、きょうから鈴木さん。

こちらのお店ではあなたは『牧野美々』さんです。

牧野さんってお呼びしますね。」

川崎店長が明るい声で言った。

 

「はい、よろしくお願いします」

まやは深々と頭を下げた。

 

こうして、新人デリへル嬢・牧野美々が、誕生した。