ウサギのMimi〜アラフォー風俗嬢の恋日記〜

アラフォー風俗嬢Mimiの恋愛あり笑いありの日常を綴ります。

第9話「美々の初出勤・後編」

美々はお店との契約書類にサインして、石原から基本ルールを、再度説明された。


「では、行きましょう」

石原は店のドアを開け、美々をエレベーターへ誘導してくれた。

クルマに乗り込むときも、ドアを開け閉めしてくれる。

自分はお姫様のような扱いをしてくれる男性スタッフたちに、まだ美々は慣れなくて、おどおどしてしまう。


『そういえば遼に、こんなことされたことないなあ…。

潤一なら、ドアは先に開けて待ってくれる。

女の子の扱いに慣れているからかなあ…』

ふと、夫と潤一のことを思い出したが、美々は首をブンブン横に振った。


「ダメだ、今は2人のことは、考えないようにしよう。」


後部座席で、緊張のあまり、美々はカチコチに固まる。

運転していた石原は、笑いながら言った。


「牧野さん。


このお店で、1番大切にしてるのは

『恋人のように接客すること』です。

テクニックはいりません。

目の前のお客様と恋人同士になったように、演じる。


女の子が、源氏名を使うのは身バレのためじゃないんですよ。

その時間だけ、『牧野美々』さんになりきって、目の前のお客さんの恋人になるため。


嘘をついて構わないです。

『牧野美々』を演じ切るんです。

そのために、源氏名があるんです。


いま、緊張していますけど、それは仕方ないんで、普段通りの牧野さんでやってください。


それから、あまり思い詰めないことです。


大丈夫ですから。」

 


「はい…わたし、普段からあがり症で…

『失敗したらどうしよう?』

『失敗したくない』ってすぐ怖くなるんです……」

わたしは、思わず、涙がこぼれそうなのをぐっとこらえた。


「牧野さん。


一番いけないことは

『失敗すること』じゃなく、

『失敗したあと、改善しないこと、学ばないこと』です。


人は、失敗するから、初めて学べるんです。

いま、うちの店にいるどんな売れっ子の女の子も、必ず未経験から始めたんです。

それを忘れないでください。

 

大丈夫です!」


「ありがとうございます!」


クルマは、ホテル「Coco」の前で停車した。

お客様が到着し、部屋に入ったら、お店に電話がかかってくるので、お部屋のナンバーを教えてもらう。


PRRRR…


「りゅう様、お待ちしておりました。

……はい、301号室ですね。

かしこまりましたー!

すぐにお伺いいたします。」

 

「牧野さん。

いま牧野さんのスマホに、お客様の情報がメールで到着しているはずなので、確認してください。」

 

「はい……お客様のお名前は、りゅう様。

場所は『ホテルCoco』。

オプションは……何も書いてないです。」

 

「そうですね。オプションは以前説明しましたが、有料と無料メニューがあります。

りゅう様はいつも、オプションなしです。

リンク先をタップしてください。」

 

タップすると、石原のスマホにメールが到着するようだ。

 

「では、お部屋に入れていただいたら、ご挨拶、名刺、お電話代をお渡しし、まず、お店に電話してください。

僕が言った金額を復唱し、電話を切り、お金をいただいてから、サービスをスタートしてください。

終了10分前にメールが入ります。

部屋を出る時に、またお店に電話をしてください。」

 

「はい、わかりました。」

美々は頷いた。


石原が先にクルマを降り、後部座席のドアを開いた。

 

『いよいよ初めてのお仕事だ……!』


意を決して、美々は座席を降りた。


石原が先導しホテルのフロントにサービスカードを出した。

「『完熟の花園』です。よろしくお願いします。」

2人は部屋に向かおうとするが、フロントの前の段差で、美々が慣れない足つきで歩くと、ヒールを段差に引っかけてしまった。


「あぶないっ!」

 


石原が、とっさに、美々の肩をグッと掴んだおかげで、美々はあやうく怪我せずにすんだ。

 


「あああ…すみません」

 


「牧野さん、落ち着いて。」

 


美々はガタガタと肩を震わせて、涙ぐんだ。

 


「大丈夫、大丈夫!」

石原は、美々の背後にまわり、

肩を優しくもんでくれた。

 


石原の優しさに、美々は嬉しいやら、情けないやらで、涙をこぼした。

 


「美々。大丈夫!

これからが「牧野美々」の、スタートなんだから。

わたしが、自分で決めた、新しい人生なんだから!」

心の中で美々は呟き、3秒でなんとか平静を取り戻し、優しく微笑む石原に

「行ってきます」と、お辞儀をした。

 


「行ってらっしゃい!」

石原は笑顔で送り出してくれた。

 


美々の乗ったエレベーターは、3階に到着。

お客様の待つ部屋に、ゆっくりと向かった。